宮崎駿の雑想ノート(11)
宮崎駿の原作に異なる魅力を加えた秀作ドラマ |
宮崎駿の傑作連作短編集「宮崎駿の雑想ノート」から、第二次世界大戦末期の東部戦線のドイツ戦車部隊を描いた作品「ハンスの帰還」に材をとった約60分のラジオドラマを収録。
ラジオドラマということで、当然のことながら音声だけでストーリーは進むが、演出、脚本ともすばらしいものになっている。整備兵ハンスの一人語りの形式で、ドラッシェ大尉とハンスの2役を西田敏行が演じる(他に女性兵ローザは女性が演じる)。
戦争末期の東部戦線。友軍の撤退を助けるため、殿軍となった重戦車部隊。最後の戦車が稼動しなくなったとき、老戦車長ドラシェはハンスが属する整備兵中隊とともに装備を捨て、撤退を命じる。やがて部隊は四散し2人になるが、ドラシェとハンスは街道に放置された虎戦車を見つける。途中、解散した通信部隊の女性兵ローザを乗せ、3人のエルベ河を目指した敵中突破行が始まる・・・。
原作はハンスがブタキャラで描かれるなどマンガ的な作品にまとめられているが、本作では戦争末期の退却行という状況を受けて、全体にシリアスな演出が施されている(ローザが一少女から、女性通信兵に変更されているのもひとつ)。
3人が乗る戦車は原作の四号戦車が虎戦車になっている。このことにより虎戦車という巨大な機械に関する細かな説明(暖機運転、車輌整備、潜水設備、エンジンの話など、宮崎駿が好みそうなギミック部分)や、ドイツ戦車兵や整備兵たちの話などのエピソードにつなげることに成功しており、作品に膨らみを与えている。
また原作のあっさりしたラストが余韻深く演出され印象的。
ドラマの出来としてはすばらしいが、この1篇に二千円少々の値段を出すかということになると、やや華に欠ける印象がある。2篇・3篇収録してCD1セットというのであればより魅力的になったのではないだろうか。