母をたずねて三千里(9)
主人公はイタリアのジェノバに住む少年マルコ。アルゼンチンに出稼ぎに行った母親から音信が途絶えたのを不安に思ったマルコは一人、母親に会うための旅に出る…。1976年放送、日本アニメーション制作の「世界名作劇場」としては2作目。監督が高畑勲、画面設定・レイアウトとして宮崎駿という、後の「ジブリ組」がスタッフとして参加していたことでも有名な作品である。原作はエドモンド・デ・アミーチス。
マルコはいろいろな人に出会いながら成長し、そして出会った人にも影響を与えていく。マルコが最初に乗り込んだ船、フォルゴーレ号の乗組員たちとの間に芽生える信頼、お金を無くし途方にくれるマルコを救う旅芸人ペッピーノ一座の人情家ぶり、居酒屋「イタリアの星」で受ける多くの善意、そしてインディオの少年パブロとの友情…。どのエピソードもよくできていて、どこから見てもじんわりと心が熱くなる。
主人公がどちらかと言えば悲観的で、後期シリーズに多い「持ち前の明るさで苦境を切り開いていくタイプ」でないのは面白い。ちょっぴり暗めだが、ただひたすらに正直で、働き者で、信じたことにはまっすぐ。そんなキャラクターが魅力的な時代だったのかもしれない。
蛇足ながら、マルコとともに旅する猿のアメデオは筆舌に尽くしがたいほどの愛らしさ。「世界名作劇場」シリーズ中には多くのマスコット的動物がいたが、愛嬌という面ではこのアメデオがピカイチではあるまいか。(安川正吾)